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「ESGが当たり前である世界に」資産運用会社の責任投資を担う社員の想い

「ESGが当たり前になった世界はどんなものかなっていう想像はよくしたりしますね。」
最近耳にする機会が増えたESG投資。今回はESG投資も含めた責任投資に関わっている当社の社員にインタビューしました!

責任投資とは「機関投資家として責任のある行動をとること」

――まずはこれまでの経歴、キャリアについて教えてください。

新卒で証券会社に入社し、新興国中心のエコノミストをしていました。その後、運用会社に転職してESG投資や議決権に関わる仕事に就き、2018年に旧三井住友アセットマネジメント株式会社へ転職し、現在まで約6-7年間、ESG投資や議決権に関わる仕事を行っています。

――現在の仕事内容について教えてください。

責任投資に関わる仕事を行っています。責任投資とは「機関投資家として責任のある行動をとること」です。具体的にはスチュワードシップ活動や受託者責任と言われるもので、その中にESG投資(Environment 環境、Social 社会、Governance ガバナンスの要素も考慮した投資)やエンゲージメント(運用対象先の企業に対し、直接の対話や議決権行使などを通じ、経営の改善を働きかけること)などがあります。

従来、運用会社では、数値が明確に表れる財務指標を基に企業価値を分析し、株式等の投資判断をしていくことが比較的多かったのですが、最近は企業価値を分析する上で財務指標には表れない非財務情報も考慮していく必要性が高まってきました。ESGも非財務情報ですが、持続的な成長に必要なものとして、前向きに取り組む企業が増えています。

――どのような部署と一緒にお仕事をされることが多いですか?

基本的には運用に関する業務であるため、ファンドマネージャーやアナリストと一緒に仕事をすることが多いです。
スチュワードシップ活動には「議決権行使」と「企業対話」があります。まず議決権行使ですが、私が所属する責任投資推進室が当社保有の議決権の全てについて方針を決定します。その過程で、適宜ファンドマネージャーやアナリストと連携しながら議決権の方向性を協議したり、企業側から株主総会内容の説明があった際にミーティングに参加したりしています。

次に、「企業対話」に関しては、ESGについてヒアリングを行ったり、機関投資家としてどう考えているかという意見表明を投資先企業にしたりすることもあります。その際は、運用に関連する部署と協議しながら企業との対話に臨んでいます。

――ここからはさらに詳しく業務のお話を聞かせてください。まずは、ESG評価のスコア化を行っていると思うのですが、どういった情報を基に行っているのでしょうか?

当社の評価スコアは、基礎評価として情報ベンダーから情報を買い当社の基準でスコア化したものが50%、アナリスト評価として企業調査グループのアナリストがつけているものが50%となり、双方を合わせて総合的なスコアを作成しています。ベンダーからの情報で足りない点があった場合は私たちで判断しスコア化したり、アナリスト側で評価できない部分は情報交換してスコア化を行ったりしています。こうして600銘柄以上のスコアを付けており、毎月の更新に加え、大規模な見直しを年2回行っています。

――ベンダーからの情報、責任投資推進室の情報、アナリストの情報、3つの視点からスコア化されているのですね。これは他社も同様の手法なのでしょうか?

他社の判断手法は色々ですね。アナリストが100%評価するスタイルもあれば、ヨーロッパなどでは複数の情報ベンダーから情報を購入してスコア化するような手法もあるようです。

――現在の手法のように、さまざまな視点を入れることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

ベンダーの情報は既に開示されている情報なので今後の変化は読み取りにくいです。一方、アナリストは日常的にその会社に接触していて期待値を盛り込んで株式を評価するので、その観点をESG評価に取り込むことで、企業の変化の可能性を評価指標に反映できるのが一番のメリットかなと思います。

また、ベンダーからの情報で作られる基礎評価とアナリスト評価を別々に利用することもできます。どちらか1つの評価だけを参考にしてもいいですし、2つの評価の違いから投資機会を探ることもできます。例えば、当社で運用している「三井住友・日本株式ESGファンド」は基礎評価よりもアナリスト評価の方が高い銘柄に着目しています。

三井住友・日本株式ESGファンド
https://www.smd-am.co.jp/fund/178709/
ESG投資の拡大が期待される日本株式に投資を行う投資信託。企業調査に精通したアナリストが企業のESGへの取組みを評価(ESG評価)し、企業価値向上が期待される銘柄を選定します。

――続いて、議決権行使についてお伺いします。議決権行使では当社は反対票を投じることが多いというレポートを見たのですが、実際はいかがでしょうか?

当社はとても反対票が多いですね。行使に際してはガイドラインを作り公表し、「こういう場合は反対します」と明示しています。ガイドラインに沿って厳格に意思表示をするので、当社は注目を集めているようです。

例えば、最近では社外取締役を入れましょうという動きが強まっているのですが、社外取締役は基本的には我々機関投資家の意見を反映してくれる立場になりうる人なので、資質などの適切性や、その企業から独立した立場であるか等を見て選任への票を入れたりしています。

ただ、ガイドラインに沿っていない場合でも、企業との対話を通じて納得できる理由がある場合は柔軟に判断します。

コミュニケーション力や調整力が必要

――では、次の話題に移ります。現在の仕事の面白い点についてお聞きしたいです。

とにかく新しい情報が多いので、そういうのが好きな人は良いかなと思います。ヨーロッパ発で新しい基準ができたり、新しい問題が出てきたり、前からあった問題がさらに火を噴いたりなど。とにかく新しい情報が多いので、今まで通りの考え方が通用しない柔軟性があるのが面白い点です。

また、当社は協働対話や、様々なイニシアティブに加盟しているので、同業他社との交流が多いです。協働対話は、当社の場合だと、機関投資家協働対話フォーラム(IICEF)に入っているのですが、国内の責任投資業務に従事する人が集まって、例えば一つの会社に一緒に対話をしに行ったりしています。
そういう場面では、コミュニケーション力や調整力が必要になってきます。様々な人の意見を聞いて、なおかつ自分の意見も言って、それぞれのバランスを保ちながら調整したりしています。

――毎日様々な方の意見を取り入れたり、新しい視点が見られるっていうことですね。ちなみに、仕事において難しいと感じられている点はありますか。

社内でまだまだ情報が足りないなという時に、本当にこの判断が最適解なのかなと疑問に思うような場面がありますし、何より未来はわからないってことが難しいですね。投資の全てに言えることだと思いますが。

例えば、気候変動に関して菅政権のカーボンニュートラルで目安が2050年になっていますけれど、30年先じゃないですか。実際に気温がどこまで上昇をするのか、上昇したときに今言われているような事象や災害の規模はどの程度になりうるのか、特に悪いといわれるシナリオを回避するための取組みは何が最適なのかといったら全部がわからない状態ではあるので、それを基に予測していくことは難しいですね。日々アップデートされる情報を積極的に取りに行き考える姿勢が大切だと思います。

――そういう部分は先ほどのお話にあったように、様々な意見を調整して業務を進めていくという部分なのですね。
続いて、現時点で責任投資推進室としての課題があれば、お聞きしたいです。

とにかくやることが多いですね。目の前の課題を片付けつつ新しい情報があったらそれも採り入れていくことが求められる仕事なので、仕事量は多い方かと思います。実際に企業と対話するとなると、事前準備も念入りに行う必要があり、また議決権も時間を確保してやっているので。絶賛人員募集中です!

――今までで一番心に残っている仕事を何か一つ挙げるとしたら何かありますか。

最近何度かお会いしていた企業で、環境面で製品やサービスのこういう点に強みがあるんじゃないかと何度か説明していたら、決算説明会の資料等でその点の説明が反映されていて、「こういう風に改善してみました」と企業側からも言ってくれたりとかして。やはり対話を通じて、そういう良い進展があるのは嬉しいですね。

――コンサルティングみたいな感じですね!

そうですね!当社としても投資先企業の株価が上がってくれればお互いにwin-winなので。

お客様の利益を第一に

――普段の業務の流れを教えてください。

責任投資推進室の場合だと、一日単位ではなく、実は年間で見た方がわかりやすくて。

第1四半期(4-6月)は、株主総会が6月に集中するので、議決権の最繁忙期は6月ですね。6月で大体1,600社の議決権行使を行います。それに向けて4-5月は企業対話が増え、基本的に国内株の議決権行使を最優先で行っています。

7-8月は、年金基金のお客様への報告や、4-6月で行ったエンゲージメントと議決権の結果をまとめて開示に向けての調整を行います。企業も統合報告書を出し始める時期でもあるので、少しずつESG関連の対話や説明会とかも始まっていきます。ESG関連の対話や説明会は、ここ最近は大体11-12月がピークになってきます。

12月頃からは、我々が加盟している責任投資原則PRIのレポーティングに取り掛かります。毎年あるのですが、これが結構ハードな業務です。3月末が期限なので、社内のデータをまとめる作業を行いつつ、第3四半期あたりから来年度の議決権のガイドラインをどうするかという話し合いも始まります。

先ほど言ったESG評価の大規模見直しは7月と1月に行い、年明け2月ぐらいからまた次の総会に向けて企業対話が徐々に増え、3月に入ると12月決算企業分の議決権行使を行います。

一年のサイクルはこのような感じです。今までは6月がピークみたいな感じでしたが、年々、そのほかの時期も徐々に仕事が増えていますね。今年は7月から新しく、企業調査グループのアナリストと協力した環境やカーボンに関する企業対話が始まっていたりします。

――すでに環境問題は注目されていますけど、そういった話題が今後注目されてくると、どんどん忙しくなりそうですね!

そうですね。毎年新しい仕事が増えています。(笑)

――続いて、仕事をする上で大切にしていること、何か一つ挙げるとしたら、ありますか。

「お客様第一」ですね。我々がもっとも考えるべきなのは、受託者としてお客様の利益を第一に考えることで、これはもう絶対です。

だから、例えば気候変動について対話するときも、株式であれば企業価値の向上、債券であれば信用力の向上、それがひいてはお客様のリターンに繋がってきますので、そのあたりの説明が納得できるものであるかというのはきちんと考えながら取り組んでいます。

ESGが当たり前になった世界へ

――では、今後やってみたい業務はありますか。

将来的にESG投資とかの話は多分当たり前になってくるのかなと思います。例えば、ファンドマネージャーやアナリストも当然のようにこういうのを考えていくようになると、我々の仕事は自然と減っていくのかなっていう気はしています。
その時はまた新しい仕事を探し求めるかもしれないですね。(笑)

――今の業務を通じて、やりたいことや伝えていきたいこと、実現したいことは何かありますか。
 
今後、金融商品に関してもお客様に対する透明性っていうのはどんどん高まっていくのかなと思います。我々が開示していくものとか、お客様への回答もどんどん内容が充実していき、お客様に説明する責任が増えていくのだろうなとは感じています。

例えば、何かお菓子を買うときに、アレルギー持っている人は必ずチェックしますよね。昔はそういう表示はなかったけれども、今は当たり前に表示がされています。金融商品に関しても、色んな説明が増えて、お客様も選択しやすいようになっていくのかなと思いますし、我々もお客様へしっかり答えられるようにやっていきたいなというのもあります。それが責任投資の大事な仕事だと思っています。

――最後に、今後叶えたい個人としての夢や目標があれば教えてください!

ESGが当たり前になった世界はどんなものかなっていう想像はよくしたりしますね。そんな未来が来てくれればいいなと思っています。

――熊谷さん、ありがとうございました!

熊谷 茜
新卒で証券会社へ入社、新興国中心のエコノミストを担当。その後、運用会社へ転職。2018年に旧・三井住友アセットマネジメント株式会社へ中途入社、企業調査部スチュワードシップ推進室(現・責任投資推進室の前身)にて前職を含め約7年間、ESG投資や議決権行使に関わる。


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 https://note.smd-am.co.jp/n/ne1117c736c1a


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