廃プラスチックによる海洋汚染問題に対処しよう︕︕
提供元︓三井住友DSアセットマネジメント(サステナビリティ推進室 前川 隆行)
私たちは、プラスチックのおかげで便利で快適な生活を送ることができています。しかし、プラスチックは気候変動や自然資本に対する脅威となることがあります。
世界のサーキュラーエコノミーを推進するイギリスの財団が公表している資料では、2019年のプラスチック由来の温室効果ガス(GHG)排出量は約18億トンでしたが、2060年には43億トンに増加すると試算されています。さらに、不正処理された廃プラスチックが自然資本に悪影響を与えています。
廃プラスチックによる海洋汚染の現状
国連環境計画によると、毎年1億トンもの廃プラスチックが海洋に流出しています。長期にわたり分解されないという性質を持つため、適切に処理されない廃プラスチックによる海洋汚染は深刻な問題となっています。
第1の問題は、経済損失の増大です。OECDは、2020年の海洋に漂流する廃プラスチックによる観光・漁業被害を20兆円と試算しました。第2に、国連は物理的リスクとして、沿岸の生態系破壊や住環境悪化、健康被害といった悪影響を指摘しています。特に問題となるのは、微小なプラスチック粒子(マイクロプラスチック)の生物への取り込みです。
廃プラスチックが分解される過程で有害な化学物質(環境ホルモン)が放出され、魚・貝を経由して人体へも取り込まれています。有機フッ素化合物など生命の危機につながる環境ホルモンの影響も懸念されています。
廃プラスチック汚染の深刻化
廃プラスチック汚染は、放置すると深刻化します。世界的なプラスチック生産の増加率は、GDP成長率の2倍で推移しています。これは、プラスチックが他の素材と比較して、軽量、高耐久、低コストで経済性に優れているためです。
グローバルサウスでは、経済成長とともに先進国以上にプラスチック使用量が増加しています。
国際社会による取り組み
国際社会は、深刻化する廃プラスチック汚染への対策に取り組んでいます。2022年、国連はプラスチック汚染に法的拘束力のある条約を2024年中に締結することを決議しました。2023年、G7はプラスチック汚染を次の環境注力課題としました。
私たちは、国際社会に呼応し、国連責任投資原則による「プラスチック汚染防止に法的拘束力を伴う条約策定を求める民間金融セクター宣言」に2024年4月に署名しました。これは国連加盟各国がプラスチック汚染防止に向けた取り組みを強化することが、私たちのステークホルダーの利益に適うと考えたためです。
国際社会では、プラスチック汚染防止の条約締結に向けて、2つの勢力があります。EU加盟国、カナダ、日本、オーストラリアは、2040年までにプラスチック汚染の悪化を終わらせるためにプラスチック生産抑制を主張しています。一方、サウジアラビア、ロシア、中国、イラン等の複数国は、生産削減に反対しています。これらの国は、原油生産減や環境対策費増加の要因を排除することを主眼としており、リサイクルに注力すべきと主張しています。
リサイクルの課題
ただし、リサイクルは簡単ではありません。
まず、リサイクル用プラスチックの輸出が悪影響を及ぼしています。
2021年、日本では廃プラスチックの2割がマテリアルリサイクルされていますが、そのうちリサイクルプラスチックの3分の2が輸出されています。しかし、その一部はリサイクルされず、不正に処理されているのが実態です。国連の推計によれば、グローバルな廃プラスチックの不正処理は、中国、インドネシア、フィリピンの順で多く、不法放棄やダイオキシンが大量発生する野焼きが行われています。
リサイクルの第2の問題点は、複合材の増加です。プラスチック複合化、炭素繊維強化、紙とプラスチックの複合材などの進化により、リサイクルがますます困難になっています。
最後に、リサイクルによる環境への負荷も問題です。バージンプラスチックに比べれば小さいとはいえ、リサイクルによるマイクロプラスチックの大量海洋流出など、相当な環境負荷がかかっています。
今後の取り組み展望
国連環境計画は、各国が十分な対策を講じれば、20年足らずでプラスチック汚染を80%削減できる可能性があると示しています。十分な対策とは、再利用、リサイクル、代替素材の活用です。
まず、プラスチックの再利用で30%の削減が見込まれます。多くの国や地域で使い捨てプラスチック製品の使用を制限する法律や規制が導入されています。詰め替えボトルや容器の引き取りといったプログラムを推進すべきです。
次に、リサイクル量の増加で20%削減が期待されます。現在、世界でリサイクルされているプラスチックは年間9%前後にとどまります。残りは埋め立てや焼却処分されるため、プラスチック・リサイクルを促進するための政策制定やリサイクルしやすい素材への転換が求められます。
最後に、代替素材で30%の削減が可能です。バイオマスでも、海洋植物や遺伝子組み換え植物といった食糧以外を原料とするバイオマス・プラスチックや生分解プラスチックの供給増加が求められます。さらに、生分解プラスチックの低コスト生産の実現が不可欠です。私たちは、これらの取り組みを行う企業を引き続き支援してまいります。