チョコレートと人権・環境
提供元:三井住友DSアセットマネジメント(責任投資推進室 肥土 恵子)
カカオと児童労働
チョコレートの原料であるカカオは、コートジボワールとガーナが主要生産国であり、日本はカカオの大半をガーナから輸入しています。
コートジボワールとガーナでは多くの児童がカカオ生産地で労働しており、中には重いカカオの運搬や斧を用いた農園の開墾など、危険を伴う重労働に従事する児童もいます。カカオを出荷するまでには、収穫、運搬、豆の取り出し、発酵、乾燥、選別、袋詰めなど多くの作業が必要です。
さらに、労働者を雇う余裕のない貧困農家が多いことが、児童労働の背景にあります。児童が労働のために学校へ通えず、教育を受けないままで大人になると、貧困の連鎖から抜け出すことが容易ではありません。児童労働および児童が教育を受ける機会がないことは、重要な人権問題です。
カカオと環境問題
カカオ農園の拡大による森林伐採が環境に負の影響を及ぼしています。樹木は光合成によって二酸化炭素を吸収し、樹体内や土壌中に二酸化炭素を貯蔵しています。森林伐採によって森林が破壊されると、貯蔵されていた温室効果ガスである二酸化炭素が大気中に放出され、地球温暖化の一因になります。
また、森林には陸地の動植物の3分の2以上が生息しており、森林は生物多様性を維持するのに重要な役割を担っています。しかし、森林伐採による生息地域の減少と環境変化により、生物の種が減少し生態系へ長期にわたって影響をもたらします。
サステナブルなカカオへの取組み
欧州連合(EU)はカカオ主要生産地の西アフリカ諸国におけるカカオサプライチェーンの持続可能性を向上させるため、2020年に「サステナブル・カカオ・イニシアチブ(SCI)」を開始しました。これは、カカオ農家が生活を維持できる所得を確保し、児童労働と人身売買の撤廃や森林の保護と再生を目的にしています。また、カカオ、コーヒー、パーム油、木材、牛肉、大豆、天然ゴムをEU市場で流通させる企業に対して、生産時に森林を破壊していない証明を求める「欧州森林破壊防止規則(EUDR)」を当初予定より1年延期して2025年12月30日から適用する予定です。
米国労働省は、企業などによる児童労働・強制労働撤廃の活動を促進する目的で「児童労働・強制労働によって生産された物品リスト」を作成しました。ガーナとコートジボワールのカカオはこのリストに掲載されており、当該物品の米国輸入量を開示しています。
日本では、国際協力機構(JICA)が2020年に「開発途上国におけるサステナブル・カカオ・プラットフォーム」を発足させました。カカオ主産地では貧困、それに起因する児童労働や教育を受ける機会の喪失、農園拡大による森林伐採と環境問題など、負の影響が連鎖しています。
この悪循環を断ち切り改善するには、各国政府や国際機関の施策と同時に、カカオに関わる全ての企業がサプライチェーンの上流にまで遡って児童労働や森林伐採などのリスクを特定し、その実態を把握することが必要です。また、時期と改善項目について明確なターゲットを定め、実効性の高い取り組みを行うことが求められます。
「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、企業がグローバル経済の中でサプライチェーンも含めた人権尊重の責任を果たすことを求めています。
明治ホールディングスの「メイジ・カカオ・サポート」
明治ホールディングス傘下の株式会社明治は、ガーナをはじめとする9カ国でカカオ農家支援活動「メイジ・カカオ・サポート」を2006年に開始しました。この活動では、カカオ農家への気候変動に適応する技術支援、生産性の高い品種のカカオ苗木や森林保全を目的とした苗木の配布、生活の質を向上するための井戸の寄贈などを行っています。
同社は、農家支援を実施した地域で生産されたカカオ豆「明治サステナブルカカオ豆」の調達比率が目標を2年前倒しで2024年度中に100%に達する見込みであることを2024年7月に公表しました。また、カカオ豆調達農家における児童労働ゼロを目指し、ガーナで2026年度までに、その他地域では2030年度までを目標とし、取り組んでいます。
ガーナでは、「児童労働監視改善システム(CLMRS)」を導入し、農家の実地調査に基づいて児童労働の事例を特定し、改善支援、フォローアップ、啓蒙活動を継続的に行っています。
同社ならびにホールディングスのホームページによると、2022年10月から2023年9月の期間でCLMRSを導入した農家数は5,460軒、そのうち児童労働と特定された数は650人で、そのすべては是正済みです。
また、森林保全では2026年度までにガーナ、2030年度までにその他の調達先で森林減少ゼロを目指して取り組んでいます。
well-beingなチョコレートのために
カカオは、動脈硬化予防や血圧低下、便通改善、ストレス軽減などの効果が期待され、人々の健康に良い食物とされています。一方、カカオ生産地では児童労働や地球環境への負の影響が問題になっています。チョコレートが人々の健康、人権、地球環境すべてにおいてwell-beingな食物であるためには、原料のカカオがサステナブルでなければなりません。
投資家としては、企業との対話を通じてサステナブルなカカオ調達100%実現に向けた目標設定の妥当性や施策の実効性および進捗状況を確認し、それらが不十分であれば改善を促していくことが重要です。
企業は、サステナブル・カカオ調達に係るコストを製品価格へ転嫁して適正なマージンを獲得するために、消費者への啓蒙とブランド価値を高める活動が必要です。そして消費者には、チョコレートを購入する際に人権・環境に配慮したカカオを使ったチョコレートかどうか、エシカルな視点で商品を選ぶことが求められます。
<参考資料>
●明治ホールディングスHP
Meiji Cocoa Support カカオづくりを、持続可能に。明治にできることを、もっと。|サステナビリティ|
●EUサステナブル・カカオ・イニシアチブ The Sustainable Cocoa Initiative - European Commission (europa.eu)
https://international-partnerships.ec.europa.eu/policies/programming/programmes/sustainable-cocoa-initiative_en
●JICA 「開発途上国におけるサステナブル・カカオ・プラットフォーム」
開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム | 事業について - JICA
●米国労働省 「児童労働・強制労働によって生産された物品リスト」Better Trade Tool | U.S. Department of Labor (dol.gov)
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