究極のクリーンエネルギー候補~ホワイト水素~
提供元:三井住友DSアセットマネジメント(責任投資推進室 シニアアナリスト 穗坂 悠)
ブラック、グレー、ブルー、グリーン。派生形として、イエロー、ピンク、ターコイズ等もあるようですが、クリーンエネルギーの主役の一つとされている水素は、その製造方法により呼び名が異なります。水素利用時は温室効果ガスは排出されませんが、製造時はその方法や使用する電力により温室効果ガスの排出量が大きく異なるため、色を使って区別されています。その中で、注目される区分が登場してきました。それが、ホワイトです。色から想像されるように、水素を人工的に「製造」しないため、究極のクリーンエネルギーとして期待されています。
ホワイト水素とは
水素(H2)は他の元素と反応しやすく、地球上では水(H2O)やメタン(CH4)等の化合物として存在し、水素単体でまとまった形では存在しないものと考えられ、技術開発は製造を前提に発達してきました。しかし近年、石油や天然ガスと同じように地中に存在し、掘削で水素が得られることがわかってきました。これが、天然水素=ホワイト水素です。掘削は製造よりもエネルギーの消費が少ないため、環境に優しく、しかも安価で生産できる可能性があります。また、公開された米国地質調査所の調査結果によれば、全世界の埋蔵量は5兆トンに達し、これは年間消費量1億トンを基準とすると、5万年分という規模になります。そのうち数%が回収できるだけでも莫大な量です。ただし、採掘時の環境に及ぼす影響は、引き続き詳しく調査する必要があります。
ホワイト水素が生成されるプロセス
地中で水素が生成されるプロセスにはいくつかありますが、最も研究が進んでいると言われているのが、蛇紋岩(じゃもんがん)化作用と呼ばれるプロセスです。地表から数十kmの厚みで地殻があり、その下層にマントルがあります。上部マントルの主成分であるかんらん岩と水が反応し、蛇紋岩となるのが蛇紋岩化作用で、この反応によって水素が生成されます。蛇紋岩は、その名の通り、蛇の皮のような濃い緑と白のマーブル模様で光沢があり、室内の石材にも使用されます。建築や石材業界では、緑色系の大理石として販売されています。「ティノスグリーン」で検索すると、格調高いビルの受付などでの使用がイメージできるかと思います。
この蛇紋岩化作用は、様々なテーマで研究されているようです。例えば、一つは地球の生命誕生に関するもので、生命の起源となる有機化合物が、蛇紋岩化作用により生み出されたのではないかという研究があります。もう一つは、地震発生のメカニズムに関するもので、プレートの下にある上部マントルに含まれるかんらん岩と海水を含む地盤の反応が、大陸プレートと海洋プレートの境界付近で起こる地震に影響しているのではないかという研究です。このように、地球上での生命の成り立ち、地震のメカニズム等、別テーマの研究が進む中で、気候変動の切り口でもクローズアップされたと言えるでしょう。
調査の進展が期待される背景
現在調査されている段階ですが、ホワイト水素の埋蔵地域は世界中で広く観測されています。日本でも、白馬八方温泉が天然水素温泉と謳っているように、ホワイト水素が観測されています。その他にも、トルコ、オマーン、スペイン、カナダ、ニューカレドニア、イタリア等、様々な国で発見されており、さらなる発見が見込まれます。
ここで重要なのが、先進国にも多く埋蔵されている可能性がある点です。これまで先進国の多くは、石油や天然ガスを中東やロシア等、地政学リスクが高いとされる地域から購入する立場にあり、エネルギーが外交の手段に使われ悩まされてきました。ホワイト水素が石油や天然ガスに代替され、先進国自身で入手可能になれば、エネルギーの覇権も大きく変わる可能性があります。気候変動に加え、このような点を背景に、想定以上に研究開発投資が増え、調査や研究の加速が期待されます。
今後の課題
今回はホワイト水素に焦点を当てましたが、生成時に発生した二酸化炭素をいかに効率よく回収し、再利用または貯蔵するかといったブルー水素や、再生エネルギーを利用した水の電気分解から取り出すグリーン水素の技術など、様々な角度から脱炭素に向けた技術開発が必要です。また、ホワイト水素に関して言えば、採掘時の温室効果ガス以外の環境影響、場所によっては生物多様性や地盤への影響等も調査する必要があるでしょう。水素全般では、生産、流通、利用といった一連のサプライチェーンにおける技術開発は、引き続き課題と考えられます。
気候変動に対する解決策として期待は高まる一方で、投資家としての視点では、それらをどのようにリターンにつなげ、収益化していくかが重要です。1つの可能性として、ホワイト水素がコストの低いクリーンエネルギー候補と認知され、課題を克服しながら、既存のエネルギー源を代替していけば、そこに大きなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。