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「いち早く情報発信するエコノミストであり続けたい」独自の視点で経済予測を行うエコノミストの想い

ESPフォーキャスト調査*で2020年度の経済や景気の予測精度が高かった優秀なフォーキャスター5名が選出されました。そのうちの1名に選ばれた当社理事・チーフエコノミストの宅森にインタビューしました。宅森の同賞の受賞は5回目になります。エコノミストが普段どのようなことを考えているのか、是非最後までご覧ください。

*ESPフォーキャスト調査は、日本経済の将来予測を行っている民間エコノミスト約40名が、日本経済の株価・円相場を含む重要な指標の予測値や総合景気判断等についての質問票に毎月回答し、その集計結果から、今後の経済動向、景気の持続性などについてのコンセンサスを明らかにする調査です。

―日頃の業務内容を教えてください。

主に日本経済を中心に、景気の見通しなどのレポートの作成や、発表される経済指標の予測データを算出しています。かれこれ30年近く経済分析を行い、各種レポート用に日々、図表を更新しています。エコノミストとして一般的な計量経済学的なやり方をベースにしつつ、ユニークな分析を行っています。

私が使用するデータは、WEBでは得ることができないものが結構多いです。例えば、電話をかけてヒアリングしたり(今日も1件財務省にHPには掲載されないデータを照会しました)、様々な雑誌や新聞に目を通したり。そのように自ら収集したデータ等も入れ込みながら作成しています。なので、作成した分析データを貴重なデータだと直接言っていただくこともあり、このデータを欲しがる方も多くいるようです。
また、セミナーや取材でお話をする時はこれらのデータを随時更新してお話をしています。独自データの印象が強いからか、ちょっと変わったエコノミスト「お好みスト」とも言われているようです。(笑)

―これまでの経歴について教えてください。

僕は銀行員から社会人生活をスタートし、3部署目で、都市銀行初のディーリング部門のエコノミストになりました。最初は何もわからない状態でしたね。所属していた市場営業部の名刺をもって、原油価格動向を聞こうと石油会社に行ったところ、「何を調べているんですか?青果市場ですか?」と言われたこともありました。

―ちなみにエコノミストに任命されたときのお気持ちはいかがでしたか?

正直なところよくわからなかったです。初のディーリング部門のエコノミストということもあり、自分で一から仕事を作る感じでした。

当時は債券の先物市場が始まった直後で、債券のディーリングのために、マクロ経済を分析するエコノミストが必要となりました。当時の日本の債券市場の経済予測は米国の真似をしていたんです。米国債券の材料になっている米国の経済指標を日本の債券にも当てはめていて、同じ種類の日本の経済指標は無視するわけです。日本の債券のマーケットなのにおかしいでしょう?この時、債券市場では経済統計がすごく重視され予測値が大事だとされていたので、日本の統計も材料にすべきだろうと思い、日本の週次の指標予測を僕が1番最初にやり始めました。

マーケットにおいて影響度の大きい経済指標は、当時は日米貿易摩擦が問題になっていたことから米国の貿易統計でしたが、その後雇用統計に移りました。今でもずっと重要指標で、雇用統計を見ると他の指標も推測できるんです。例えば、労働投入量が計算できると、それは生産指数と連動している。そういった相関関係があって、しかも、原則第1金曜日に発表と指標としては早く発表されることもあり、雇用統計が大事だと認識されたんだと思います。

色々試行錯誤をする日々だったので、当時を振り返れば面白かったですね。予測が当たらないと、なんで当たらないんだって言われたりして。指標予測は闇夜の提灯みたいな感じのものなんです。進んだ先が崖っぷちなのか、ちゃんと道があるのか歩いてみなくちゃわからないわけです。その歩く時の道具として指標予測がありますが、さらに何かシグナル的なものはないかと探していて。そこで身近なデータを見始めました。

―宅森さんと言えば身近なデータから経済を見る手法で知られていますが、何かエピソードはありますか?

「仏滅の日には公定歩合の引き上げは起きない」と予測したことがあります。金融政策決定会合が今のように事前に発表されていなかった時代に、債券市場では日銀の公定歩合の変更がいつかを読むのが大きな仕事でしたが、調べたところ仏滅の日に日銀の決定会合が開かれないことがわかりました。これが金融政策の変更日を予測するのに使えたんです。2007年2月に政策金利の引き上げが仏滅に行われ、ジンクスは破れましたが、現在のところ、これが最後の引き上げになってしまいました。

また、「巨人が優勝すると景気が良くなる」と90年代から言っています。読売と日経のスポーツ面ではなく経済面で紹介されたのがきっかけで、身近なデータから経済予測をするエコノミストという存在になりましたね。(笑)

経済って人間が普通に暮らしている日々の営みが集積されたものなんですよね。今は何か難しい言葉を使ったり、ちょっとかっこよく言ったりするのが流行る時代かもしれません。でも、もうちょっと泥臭くなって、みなさんが興味を持っているものと経済との連動性を調べてみると、結構関係があったりするんですよね。

―一般投資家の目にも触れる様々なメディアにも寄稿記事を書かれていらっしゃいますよね。

はい。今年の記事ですと、例えば、「観光業界は10月は好調です」というために何のデータを使ったと思いますか?正解は、連載5回目に書いたように長良川の鵜飼いの観覧船の客数です。他の観光地は10月ではまだ途中経過しか測れませんが、長良川の鵜飼いは例年10月15日に終わるんです。だから10月中にも10月分としてデータが出せます。少しでも早く予測を出すためにどんなデータを使うかを試行錯誤しています。

参考記事▼
https://www.smd-am.co.jp/market/takumori/trend/2021/mijika211101/

僕はこういった予測に使える身近なデータを景気の補助信号と呼んでいます。もちろん当たらないこともありますが、補助信号をいくつも持っていれば、必ずしも絶対じゃないけれどもかなりの確率で当たると言えますよね。

―様々なデータを取り扱うお仕事ですが、こういった方が向いているという傾向はありますか?

ひたすら頑張って地道に努力することが大切です。だから、都合のいいところだけを切り取ってパパっとグラフを出すだけではダメなんですね。

僕は景気ウォッチャー調査*で、あったらいいなと思える指標を自分で考えて独自に作っています。手間はかかりますが、あえて小学生でも計算できるやり方にしています。こういった地道な作業を突き詰めてできるかどうか。単に時系列データをコピペしてグラフを描くことは誰でもできるけれども、ひと手間加えて自分なりの分析をしたり、そこから新しい事実を発見したりしていくことが重要だと思いますね。

*景気ウォッチャー調査 は、内閣府が毎月実施する、街角の景況感(景気)を調べるための調査をいいます。 別名で「街角景気」とも呼ばれ、日本の各地域の景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々の協力を得て、地域毎の景気動向を的確かつ迅速に把握し、景気動向判断の基礎資料とすることを目的としています。

―今までで1番印象に残っているマーケットイベントを教えてください。

リーマンショック後の立ち直りの予測を当てたことです。当時、ある銀行の法人部門が主催するセミナーに登壇していたのですが、リーマンショック時は特に関西でセミナー開催要望が多くあがりました。なぜかと言うと、多くの人が暗い話しかしない中で「大丈夫だよ、身近な統計では良い傾向が出始めているから!」と前向きな発言を期待されていたようです。そういう意味では自分が景気予測をお話しすることで参加者を元気づけることが出来て良かったなと思いますね。

―最後に一般投資家の皆様へのメッセージをお聞かせください。

経済は難しくないです!経済という言葉を出すと難しいと決めつけてしまう人も多いですよね。ただ、普段から身近な経済動向を見て自分の意見を何かしら持っていれば、例えば資産形成をするタイミングでも、人に言われるまま行動するのではなく、自分自身で選択できるようになると思います。様々な経済の見方や予測の方法があるけれども、色々興味を持って見てみると何か掴めることもあるのではないでしょうか。

僕はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を重視する立場にいますが、経済を見る基準は色々あります。例えば、ちょっと気になったキーワードを見つけたら、自分で情報を集めて自分なりに分析してみる。そして、これが良さそうというポイントを見つけたら、関係するような企業や業界を探し、そこに投資している投資信託を選んでみようとか。

何か自分の物差しがあれば資産形成を行う際も心強いと思います。誰かが良いと言っていたからという基準では、失敗した際に安易に手放したくなってしまう。一方で、自分の基準で行えば、失敗しても何が悪かったのかを振り返り、別の指標を見てみようと次の判断に繋げていける。

だからこそ、そういった時に根拠になるようなデータを私はこれからも発信していければと思います。特に経済局面が変わりそうな場面で、今までもやってきたようにいち早く情報発信をしていくエコノミストであり続けたいですね。

―宅森さん、貴重なお話をありがとうございました!

宅森昭吉
旧三井銀行(現三井住友銀行)で都市銀行初のマーケットエコノミストを務める。さくら証券チーフエコノミストなどを経て現職。
パイオニアである日本の月次経済指標予測に定評がある。身近な社会データを予告信号とする、経済・金融のナウキャスト的予測手法を開発。その他、「景気ウォッチャー調査」などの開発・改善に取り組んできている。「より正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会」など政府の経済統計改革にも参画。「景気循環学会」常務理事。
著書に「ジンクスで読む日本経済」(東洋経済新報社)など。

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